「チームワークなしに良いゲームは作れない」『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』開発チームリーダーらが語るあまたのゲーム開発とは
VR脱出アドベンチャーゲームと銘打たれ、PlayStation®VRをはじめとして、HTC Vive、Oculus RiftやOculus Questなど、主要なVR端末に対応する形でリリースされたあまた株式会社初となるハイエンドVRタイトル『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』(以下ラストラビリンス)。あまたの新たな挑戦を担うこのプロジェクトの開発チームにおいて、各班を牽引するリーダーに集まってもらった。
彼らがあまたでゲーム開発に対して何を大切にし、何に重点を置いて、何を問題とし、そしてどうやって解決していったか。クリエイティブ、技術、そしてチームワークと働き方の観点から、リーダーの想いと考えを語ってもらった。
――まずは自己紹介として、業界歴や、ラストラビリンス開発チームでのポジションなどを教えてください。
草場:草場美智子(くさば みちこ)と申します。担当のポジションですが、クレジット的にはリードエンバイロメントアーティストとなっています。簡単に言うと背景の3Dグラフィックスをメインでやっております。業界歴は20年ぐらい、という言い方にしておきます。というのも、あまたにくる直前はゲーム業界から離れていた時期もありまして、DTPだとか、ドラマや映画のコンポジットなどもやっていました。あまたに入社してからは7年ぐらいになります。
渡邉:ラストラビリンスではディレクター兼ゲームデザイナーやっている渡邉哲也(わたなべ てつや)です。新卒で、テクモ株式会社(現 株式会社コーエーテクモゲームス)に入りまして、プランナーやディレクターをずっとやってきて、25年目です。テクモを4年ぐらいで辞めた後は、職種としてはゲームのディレクター・プランナーとして、フリーランスで株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下SIE)や株式会社スクウェア・エニックスで仕事をしていました。SIEで大型タイトルに携わった後、あまたに社員で入社して、今2年半ぐらいです。
福山:福山敦子(ふくやま あつこ)です。職種はアニメーターですね。業界歴はみんなと同じ、20年目ぐらいですね。私もあまたに来る直前に、ゲーム業界を離れていた時期がありまして、5年くらい、フラフラしていました。靴職人になろうとしたりして。
――靴職人というのは、またずいぶんゲームとは遠い職業ですけど。
渡邉:福山はあまたの中でも相当な変わり者かもしれません。彼女はSIE(当時SCE)から発売されたPlayStation®2用タイトルの、『ICO』や『ワンダと巨像』でリードアニメーターをやっていた人物です。僕も直接は面識なかったんですが、SIEで働いている時に『人喰いの大鷲のトリコ』と関わる機会がありまして。そこで、ゲームクリエイターの上田文人氏と喧々諤々で意見を交換するようなすごい女性がいたけど、ある日突然靴職人になると宣言して辞めた人がと聞いたんですね。大げさな話だろうと思っていたら、あまたに入社したら当人がいて、ほぼほぼ本当の話だったという。彼女に会った時は伝説の生き物をみつけたかのような気持ちでした。
福山:私実は、自分ではあまりゲームはしない人間だったんです。それで、ゲーム業界以外にも生きる道があるのかなと思いまして、PCを使わないアナログの世界で、最初から最後まで自分で作れて、そして生業にできるような職業として靴職人を目指しました。ところが……。
渡邉:やってみて気がつくんですね、靴はアンドゥができないということに(笑)。
福山:それで、やっぱり自分のスキルを活かせるのはゲーム作りしかないと思っていたところに、『ワンダと巨像』で一緒に働いていた仲間が、あまたの仕事をしていまして。人が足りないからって誘ってくれたので、タイミングよく入社することができました。
――そんな御三方が関わってリリースされた、ラストラビリンスについてご紹介をお願いできますでしょうか。
渡邉:一言でいうと、VRでやる脱出ゲームですね。VRの特徴として、まるでその場にいるような臨場感、圧倒的な没入感があるので、この臨場感や没入感を強く打ち出すことで感情を揺さぶるように作りました。
――私もプレイしてみましたが、すごい臨場感ですね。謎解きに失敗した時のペナルティが怖くて、間違いなく正解していると確信するまで、なかなかスイッチを押せない自分がいました。
『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』ローンチトレーラームービー
渡邉:謎解きに失敗すると、女の子がまず、拷問に使われるような器具でひどい目にあって死んでしまいます。そして次に自分も同じ目にあいますが、これがVRなので、普通のゲームのように客観的になれず、まさに目の前で逃げ惑う女の子や、そして自分にも降りかかる恐怖を体験することになります。それがすべての部屋のフォーマットになっているので、ゲームの世界に没入していくと、作業的にぽんぽんとボタンを押すようなことは難しく感じる方が多いようです。
――現実に閉じ込められて本物の脱出ゲームというものがあるならこんな感じではなかろうか、という強烈な恐怖とやりがいのある謎解きが魅力のラストラビリンスですが、開発を行う中での各ポジションのこだわりを教えていただけますでしょうか。
草場:私は背景を担当していたんですが、見た目は派手さだけではなく、カティアというキャラクターとあわせて、彼女が映える背景を心がけていました。
寸法1つとっても、基本はリアリティのあるグラフィックなので実寸で作るんですが、実は少し大きめに作っていることがあったりします。
例えば、最初にプレイヤーは真っ暗な画面でスタートし、カティアがスタンドライトをつけると明るくなって部屋の様子が見えるようになるという場面がありますが、本来、ああいった形のスタンドライトはゲームに登場するものよりもっと小さいものなんですね。
でも、ゲーム内では実寸より少し大きくしてあります。
VRでゲームの世界に入って、スタンドライトとカティアに対峙すると、相対的にカティアがより小柄に見えたはずです。
初めての出会いの場面で、真っ暗な部屋に、小さな女の子がいる、ということを印象付けて、守る対象としてイメージしてもらいやすいように工夫しています。
また、謎解きやお仕置きのギミックなどは、プレイヤーにはっきり注目される為に目立つ必要もありつつ、この世界になじませる為にあまり派手にはできないので、微妙な調整をしています。
渡邉:例えばギロチンみたいなお仕置きのギミックがあった時に、ユーザーの目を引く必要はあるんですが、それが最初からギラギラしたものだと、世界観を崩して、没入感を損なう恐れがあります。そこで、モデルの段階では抑えめに作っておいて、ギミックが起動した時の動きやエフェクトの表現で、目を引く演出を足していっているところがあります。
――まさに、あの恐ろしい館に少女と2人で閉じ込められたという臨場感を出すために、工夫されているんですね。それでは、次に渡邉さんにも伺ってよいでしょうか?
渡邉:演出の面から話をすると、VRなので視点誘導というのが大変重要になりました。例えば、処刑が始まった時に、見て欲しい場所が当然あるわけです。もしこれがVRでなければ、カメラを切り替えれば済む話です。カメラワークで演出できます。しかし、VRというのは、カメラはプレイヤーの目線そのものです。そこで、注目して欲しい場所にプレイヤーの視点を自然に誘導する工夫をしています。
――福山さんはいかがでしょう?
福山:私はアニメーターなので、キャラクターの動きを作っていたんですが、VRは作りが雑だとすぐにバレてしまいます。例えば、歩いている時にほんの少し足が滑っているとして、普通のゲームならそれほど気になるほどでもないことが、VRだと、目が覚めるような感じで現実の世界にひき戻されて没入感を失います。カティアを愛されるキャラクターに仕上げようと思っても、基本のクオリティでぎこちない部分が残っていると、気持ちが入っていきません。その上で、ポーズ、もっと言うとたたずまいですね、そこにただいるだけでも雰囲気を持つような存在感を大事にしました。
渡邉:イノセント感がーっ!ってよく言ってたよね(笑)
福山:イノセント感ってよく使っていたんですけど(笑)。首の角度ひとつでも雰囲気がすごく変わるので、細かく気にしていました。というのも、実は過去に私が携わった、『ICO』とか『ワンダと巨像』なんかは、1キャラクターのモーションを1人で担当することが多かったんですが、今回は1人を複数人で担当して、私がトータルの監修しているという形なんですね。そういう時、ポーズの雰囲気が違うと、アニメーションそのものはおかしくなくても、モーションごとに別人格のように見えてしまうことがあるんです。
渡邉:それぞれのアニメーターで芸風が違うというか、福山が言うには歌唱法が違うというんですね。
福山:例えば『チューリップ』の歌を歌ってくださいと言っても、みんな『チューリップ』の歌は歌えるでしょうけど、1人1人全然歌い方が違うし、持ってる声質もあればリズムの取り方も違うじゃないですか。あれ、歌の話になってる?(笑) 歌にすると分かりますよね!
草場:まあ、福山の感性は独特なんですが、言いたいことは、中の人が見えてしまってはいけないということなんだと思うんですよね。
福山:そう、そうなんです!
渡邉:福山が持っているモーションの価値観はちょっと変わっているところがあって、普通は、印象的なキャラクターを作ろうと思えば、印象的なモーションをつければいいと考えます。しかし彼女はそれを極端に嫌う傾向があるんですよ。なので、じんわり伝わってくるような、さっきのたたずまい、といったような話になります。
福山:そうですね。でも、ちょっとだけ訂正させてもらうと、印象的なモーションをつけたい時もあるんですよ。例えば、カティアで言えば、椅子に座った後、靴に触るモーションがあります。それは印象的になるようにつけているんですが、実は、カティアはゲーム中、椅子に座る頻度は多くないんですよ。頻度が少ないモーションは印象的なものをつけることがあるんです。でも、しょっちゅう登場するモーションに印象的なものをつけると、そこにひっぱられすぎるので、ゲームの中でどう使われるかを意識しながら緩急をつけて、それでいてたたずまいから1人の人間としての雰囲気がにじみ出るように、という、言葉にするのはちょっと難しいことを目指して頑張っています。
―それぞれがこだわりをもって開発に取り組まれていることが、大変よくわかりました。次は、そういったこだわりを持った開発の中で、困難だったことや難しかったこと、そしてそれをどう解決していったかについて、お話しただけますでしょうか?
草場:背景班では、負荷調整がとても大変でした。グラフィックが原因でフレームレートが落ちるようなことを避けたいと思って、常に調整してきたんですが、それでもVRで実際に動かしてみるたり、演出が入ってくるとどうしても負荷がかかりすぎる場合がありました。
――そういった調整は、VRの方が難しい、というようなことがあるのでしょうか?
渡邉:ざっくりいうと、右目と左目の両方に表示しているので、倍負荷がかかるというのと、普通のゲームであれば多少フレームレートが落ちてもちょっと画面の滑らかさに影響が出るくらいの話なんですが、VRの場合、それでいわゆるVR酔いを引き起こす場合があるので、とてもデリケートな問題になっていますね。PSVRであれば、60FPS以下のゲームは発売できないという厳しいレギュレーションがあります。
草場:草場:これを解決するために、少し専門的な話になりますが、社内のテクニカルアーティスト(以下TA)という、グラフィック面を見ながらエンジニア知識もある役割の者がいるんですが、そのTAの提案で、開発途中に標準とは異なるレンダーパイプラインを導入しました。
――レンダーパイプラインというのは?
渡邉:レンダーパイプラインというのは、3DCGを、モデリングから始まり、ラスタライズして2次元的な画像データに変換し、動画として出力するまでの一連の流れを担うソリューションです。今回は、UnityのLight Weight Render Pipeline(以下LWRP)をラストラビリンス用にカスタマイズして、必要ない機能を削りつつ、グラフィックの軽量化に取り組んだりということで、開発途中に導入しました。
草場:本来は最初にカスタマイズして、その機能の範囲でグラフィックを構築していくべきものなんですが、VRということもあって、かなりシビアなグラフィックの軽量化が必要であることがわかり、途中で導入を決断しました。不具合やバグなどとの格闘も多かったんですが、デザイナーとエンジニアが二人三脚で乗り越えていきました。
――テクニカルアーティストが非常に重要な役割を担っていたと言えるんでしょうか?
渡邉:今回のプロジェクトでもそうですし、今後はもっと重要になっていくんじゃないかと思います。
草場:デザイナーが自分の中の技術では解決できない問題が、今のハイエンドには多いんですが、それをデザイナーの視点を持ちつつ技術的に高い知識を持った人間に相談して解決策を見つけていくことができるというのは、非常に大きいですね。
福山:そういう意味では、今回チーム全体で問題を共有する開発体制ができていたことが、非常に助かりました。私が何かやりたいことがあった場合、これまでの私が経験した多くの現場では、私が勝手にエンジニアのところにいって、そこで2人で解決して進めようとすることが多かったんです。
――今回は違ったんでしょうか?
福山:今回は、私がこういうことがやりたいということを立案すると、渡邉や、あるいはしかるべきポジションの人間がディレクターの視点で必要な関係者を招集してくれて、開発チームみんなで問題を共有、議論して、解決方法を模索、担当者を決めて作業に取り掛かるという形で進めることができました。
草場:自分のところだけでフローが完結せず、全体の作業が可視化されていたので、みんな作業の齟齬が少なく、効率的に動けていたとも思います。
福山:これまでのキャリアの中で私は自分で考えたことを自分で解決することが多かったのですが、今回は必ずしも自分がやらなくてもいい、チームの中で最も適任な人物が解決してくれるので、仲間をきちんと頼れるようになりました。
渡邉:自分で抱えて困っていたり、自分で頑張って解決しようとする人は、チームの力を最大限に発揮させていないんだ、1人ががむしゃらに頑張ることは、チームの価値を下げていることです、と、とくにラストラビリンス開発チームへは厳しく話をして徹底させています。あまたは会社全体を通しても、一人ではなく、チームワークを大切にする空気があると思います。
なぜチームにこだわるか、個人的な話をすると、そもそもいいゲームを作るために絶体必要な要素として、いいチーム作りというものがあると思っています。フリーランスだった自分があまたで働く決心をした理由として「いいチーム作りがしたい」という思いがあったというのがあります。そういった意味でいうと、ラストラビリンスでは、一定の成果というか、いいチーム作りができたんじゃないかと思っています。
福山:ですから私も勝手に頑張ったり、勝手に諦めたりしなくなりましたね。
――渡邉さんは、このプロジェクトで困難なことはありましたでしょうか?
渡邉:そもそも、PS4のゲームすら出したことのない会社が、PSVRで3リージョン同時発売……どころか、メジャーなVRのプラットフォームをほとんど網羅して対応し、同時発売したのは、かなり大変でした。自分のキャリア25年の中でも、全て同時にリリースできたのは、奇跡に近いのかなと思っています。
――さて、最後になりますが、今後の目標や、一緒に働きたい人物像などについて教えていただけますでしょうか。
草場:ハイエンドのものをつくって、私自身楽しかったので、今後もチャレンジしていきたいと思います。また、私自身、ダークなものが好きな傾向があって、ラストラビリンスのような雰囲気のゲームをまた作りたいとも思います。
一緒に働く人は、固定概念にとらわれない柔軟な人がいいと思います。そこには基礎となる技術やセンスも必要になってくると思うんですが、そういったものをみんなで築きあげられるコミュニケーション能力がある方がいいですね。実際、一緒に働く若いスタッフはユニークな発想をする人が多いので、コミュニケーションをとることで勉強になるなと感じることが私自身たくさんありました。
渡邉:今回ラストラビリンスで初めてハイエンドに取り組んだんですが、単体としてはクオリティの高いものができたと思っています。しかし、ハイエンドにおける競合は非常にたくさんいるので、そういったところと互角に戦える開発体制にしていかなければいけません。これはすごく道のりが遠いように思うかもしれませんが、あまたは色んなことがスピーディーに変わっていく会社なので、普通にやっていれば追いつけるのでは、とも考えています。
そんな中、一緒に働きたい人は、速度感をもって対応できる人や、変化についていける人です。そして、いいものを作ろうとする気持ちがとても大事なんですが、いいものを作る基盤として、自分や家族の健康を第一に考えられる人がいいと思っています。
福山:もしかすると、あまり目標というのはないかもしれません。私は決められた目標に向かって一歩一歩進む感じの人間じゃないんですね。プロジェクトに参加しているうちに、やりたいことが膨らんで、色んな人に相談したり、気がついたら1人で残って作業したりして、いつも結局めいいっぱいしてしまうような感じなので。何か終わってみると、次にじゃあこれを目指して頑張ろう、というのは、あまり考えていないかもしれません。でも、また作り始めたら、止まらないと思います。
一緒に働きたい人は、みんなと同じで、センスがあって、柔軟で、コミュニケーションがとれて、そういうことぐらいしか思いつかないです。
でも、こういった価値観を共有し、コミュニケーションを通してお互いに理解し合えるような人たちと共に働きたいという事なのかもしれません。
――ラストラビリンスを経て、さらに挑戦を続けるあまたの今後がとても楽しみになりました。今日はありがとうございました。
ーNewsー
あまたでは一緒に働く仲間を募集中です | |
あまたでは、ゲームクリエイターやビジネスパーソンとしてのプロフェッショナルスキルを活かし、ゲームをはじめとするエンターテインメントコンテンツを一緒に制作するメンバーを募集中! |